[1] involuteΣiii(spur and helical gear design system)


1.1 概要
  involuteΣⅲ(spur and helical)は,円筒歯車の寸法,強度(鋼,樹脂),軸荷重,歯面修整,伝達誤差,歯面評価,FEM解析,歯形データ等の機能を備えており,効率よく的確に設計することができます.
  本ソフトウェアは,involuteΣ(spur and helical)[Software No.1]をバージョンアップしたソフトウェアです.今までオプション扱いしていた機能も一部,基本ソフトウェアに含めました.図1.1に全体画面を示します.

1.2 ソフトウェアの構成
  involuteΣiiiの構成を表1.1に示します.表中の○は,基本ソフトウェアに含まれ,◎はオプションです.
適応歯車:インボリュート平,はすば歯車(外歯車,内歯車)

1.3 プロパティ(基準ラック,精度,強度)
  図1.2~1.5に設定画面を示します.
・歯車の組み合わせ  :外歯車×外歯車,外歯車×内歯車
・基準ラック              :並歯,低歯,特殊
・歯先円決定の方式  :標準方式,等クリアランス方式
・鋼歯車の強度計算規格は,図1.5に示すように
    ・JGMA 401-02:1974, 402-02:1975
    ・JGMA 6101-02:2007, 6102-02:2009
    ・ISO63362006
    3種類があり,プラスチック歯車の強度計算規格は,JIS B 1759(2013)に対応しています.


1.4 寸法
  歯車寸法は,各部寸法,かみ合い率,すべり率,歯厚などを計算します.アンダーカットが発生している歯車のかみ合い率は,TIF(True Involute Form)径を基準にかみ合い率を決定します.また,歯先に丸みがある場合はRを考慮したかみ合い率を算出します.
(1)中心距離と転位係数の関係は,以下の3種類です.
   <1>転位係数をピニオンとギヤに与え中心距離を決定
   <2>中心距離を基準として各歯車の転位係数を決定
   <3>転位係数を無視して任意に中心距離を決定
(2)転位係数の設定方式は,以下の4種類です.
   <1>転位係数を直接入力
   <2>またぎ歯厚を入力して転位係数を決定
   <3>オーバーピン寸法を入力して転位係数を決定
   <4>円弧歯厚を入力して転位係数を決定
  図1.6に諸元設定画面を示します.また,転位係数入力時は,転位係数を直接入力する方法以外に,歯厚から転位係数を決定することもできます.図1.7に寸法結果画面を示します.

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1.5 推論
  推論1 は,図1.8のように曲げ強さを基準としてモジュールと歯幅を決定します.ここで推論したモジュールと歯幅を有効にして次の設計に進むこともできます.強度を満足するモジュール,歯幅,材料の組み合わせは何通りもありますので,推論結果を基本として歯車の概略を決定する際には非常に有効な機能です.
  推論2は,すべり率とかみ合い率を基準として最適な転位係数を決定するための機能です.図1.9に示すグラフは,ピニオンの最大すべり率を赤線で,ギヤの最大すべり率を青線で,正面かみ合い率を緑線で示しています.図1.9の場合,すべり率とかみ合い率から判断してピニオンの転位係数0.3が,歯形にとって最適な値ということができます.転位係数の決定理由は,アンダーカット防止や中心距離の変更,かみ合い圧力角の調整などが一般的ですが,この推論機能により,すべり率とかみ合い率の関係を基本とした転位係数を決定することができます.アンダーカットが発生している歯形では,すべり率の値が大きくなります.


1.6 歯形図
  かみ合い図を図1.10に示します.補助フォームに示すようにズーム,距離計測(図1.11),R計測(図1.12)機能および直径,修整歯形,作用線,歯先幅,奇数歯Y測定値の表示そして回転機能があります.歯形創成を図1.13に示します.


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1.7 歯形レンダリング
  3次元歯形のかみ合いを図1.14のように作図することができ,かみ合い部分に接触線を観察することができます.コントロールフォームにより歯形の向きを自由に変えることができ,拡大,縮小が可能です.


1.8 歯車精度
  図1.15 と図1.16 に新JIS の歯車精度規格JIS B 1702-1:1998 とJIS B 1702-2:1998 による誤差の許容値を示します.また,図1.4 の設定により新JIS と旧JIS の切り換えが可能です.歯車精度規格は
・JIS B 1702-1:1998, JIS B 1702-2:1998, JIS B 1702-3:2008
・JIS B 1702:1976
・JGMA 116-02:1983
の5 種類です.


1.9 歯車強度計算(鋼)
  歯車強度計算は,図1.5 に示すようにISO6336:2006 規格に準拠したJGMA6101-02:2007 および JGMA 6102-02:2009 規格とJGMA401-01:1974, 402-01:1975 の2種類あり,設計単位は,SI単位系,MKS 単位系を選択することができます.図1.17に強度計算の動力設定画面を示します.材料の選択は,図1.18に示すように 「材料」と「熱処理」に適応した材料の選択フォームを表示します.また,図1.19に曲げに関する係数設定画面を,図1.20に面圧に関する係数の設定画面を示し,図1.21に強度計算結果を示します.


1.10 歯車強度計算(樹脂)
  プラスチック歯車の強度は,図1.5で JIS B 1759(2013)またはLewisの式を選択することができます.JIS B 1759「プラスチック円筒歯車の曲げ強さ評価方法」は,歯車の運転試験に基づいて歯車の許容曲げ応力を求める方法が規定されていてPOMの許容曲げ応力は各所の実験結果から80.0[MPa]と定まり,POM以外の材料についても規格に基づいて独自に決定することができます.そして歯元曲げ応力と各種係数(歯元形状係数,寿命係数,雰囲気 温度係数等)を考慮した許容歯元曲げ応力とを比較して安全か否かを判断します.詳しくは規格をご覧ください.
  プラスチック歯車の強度計算の例として図1.22に歯車諸元を,図1.23に強度諸元を,図1.24に曲げ応力に関する値を図1.25に相当平歯車の値を図1.26に係数と安全率SF を示します.

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1.11 軸受け荷重
  歯車に作用する荷重と,軸受けに作用する荷重を計算します. 荷重の種類は,接線力,法線力など各軸受けに作用する荷重20種類を計算します.図1.27に計算結果を示します.

1.12 歯面評価1)
  歯面評価では,すべり率,ヘルツ応力,油膜厚さ,接触温度,すべり速度,すべり速度図(PV値)を表示します.これらの計算結果は,歯面修整には適応していません.また油膜厚さ,接触温度(歯車温度+フラッシュ温度)は,AGMA2001-C95, AnnexA による計算結果です.そのため歯面修整量や荷重分担などを考慮した厳密な解析は[45]CT-FEM Opera ⅲをお使いください.
  図1.28 の油の種類は,鉱物油,合成油を選択できISOグレードも選択(任意設定可)することができます.また,摩擦係数は,一定値,ISO,AGMA 方式の中から選択することができます.
  図1.29~1.34に,すべり率,ヘルツ応力グラフ等を示しますが,横目盛はロールアングルと作用線長さの切り換えができます.図1.31の油膜厚さから摩耗の発生確率を,図1.32の接触温度からスカッフィングの発生確率を計算します


*1) すべり率とヘルツ応力は標準機能で,他はオプションです.

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1.12aすべり率とヘルツ応力グラフ
  インボリュート歯形の特徴としてかみ合いピッチ円ではころがり運動となりますが,これ以外ではすべりを伴う運動となります.例題歯車(mn=2, z1=15, z2=24, α=20°の標準平歯車)のすべり率とヘルツ応力,歯面接触温度(歯車温度+フラッシュ温度)および油膜厚さグラフは,図1.35(左列)となり,ピニオンの歯元のすべり率が大きいため,かみ合い始めに急激なヘルツ応力変化を示しています.このような場合,精度を良くしても問題解決にはなりません.かみ合い率だけでなく,すべり率およびヘルツ応力の変化を考慮して設計する必要があります.ヘルツ応力の変化を滑らかにするには,転位を調整するだけで簡単に解決する場合があります.また,樹脂歯車は,すべりによる熱の影響が大きいため十分注意して設計する必要があります.
  中心距離を変化させないで,転位係数をxn1=0.24 , xn2=-0.24として歯形修整(スムースメッシング)を施した場合のすべり率とヘルツ応力そして歯面接触温度の変化を,図1.36に示します.この結果,図1.35(c)のスカッフィング発生確率90%から図1.36(c)では68%に低下し,摩耗の発生確率も30%から26%に低下していることが解ります.


1.12b 0級歯車
  歯車歯形のインボリュート面は重要ですが,これと同様に歯元形状も重要です.図1.37のグラフは,歯元曲線を任意Rで接続した歯形の試験結果(両歯面かみ合い)であり,図1.38のグラフは,理論トロコイド曲線歯形の試験結果を示しています.創成運動を基本に考えますと歯元の形状は①圧力角,②基準ラック歯元のたけ,③基準ラック歯元R,④転位量,⑤歯数によって決定される準トロコイド曲線となります.involuteΣⅲ(spur and helical)は,理論歯形曲線を出力します.
また,歯元形状に対する応力の影響は付録[D]をご覧ください.


1.13 FEM歯形応力解析
  強度計算終了後,[FEM]アイコンをクリックするだけで簡単に応力解析を行うことができます.図1.39に,FEM解析の設定画面を示します.縦弾性係数,ポアソン比,分割数および荷重点位置そして荷重(変更可能)を与えることで応力を解析(σxy ,せん断応力τ,主応力σ1, σ2)します.歯車強度計算と歯に作用する実応力を評価する事により歯車強度の信頼性を高めることができます.図1.40にピニオンの最大主応力σ1の応力分布図を示します.また,歯形の変位(色分布表示も可能)と歯形修整量を図1.41に示します.
  歯形修整は,歯車の運転性能を上げるための有用な方法であり精度の良い歯車であってもかみ合い時の歯のたわみにより駆動歯車と被動歯車の歯に法線ピッチの差が発生します.この法線ピッチの差によるかみ合いのずれが,[振動]や,[音]の原因となります.歯形修整はこれを解決する一つの方法です.弾性率が小さい樹脂材料は変位も大きくなりますので歯形修整の効果は大きいといえます.図1.41のように2D-FEMにより歯のたわみから歯先修整を決定する際の歯のたわみ量を知ることができますが,3次元歯面修整の決定は[45]CT-FEM Opera ⅲをお使いください.


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  図1.42に3D-FEM解析条件設定画面を示します.図1.43にピニオンとギヤの応力分布図を,図1.44にピニオンとギヤの変位図を示します.また,図1.43および図1.44の画面上部のスクロールバーで縦回転,横回転機能で観察角度を変えることができ,ズーム機能で図の拡大,縮小ができます.
  本ソフトウェアでは1歯に荷重が作用したときの歯の応力および変位を計算しますが,同時かみ合い歯に負荷が作用したときの応力,歯の変位,軸角誤差,歯形誤差,ピッチ誤差そして歯面修整などに対応した解析をしたい場合は[45]CT-FEM Opera ⅲをお使いください.


1.14 歯車修整(歯形,歯すじ,バイアス修整)
  図1.45に歯面修整を与えた例を示します.この歯形を得るためには図1.46の歯形修整を数値入力で与えることもできますが,右側の図のようにパターン化した歯形に数値を入力して与えることもできます.同様に,歯すじ修整も図1.47のように設定することができます.この歯形修整と歯すじ修整の2つを図1.48のように表し,反対歯面にコピーすれば左右歯面同じ修整歯形となり,それを合成すると図1.45として表示することができます.
  また,図1.48の画面上部のコンボボックスで「歯形」,「歯すじ」,「歯形・歯すじ」を選択することができ,歯形たけ方向は作用線または直径で指定することができます.また,歯形修整の倍率は最大1000倍で設定することができます.


  歯面修整を与えた歯形は,図1.49の歯形計算諸元で設定することができます.ここで設定した歯形計算条件は,図1.10~1.14に示す歯形に有効で,図1.14の歯形レンダリングに重ね合わせることができるため図1.50のように表示することができます.ここでは,ピニオンに歯面修整を与えているため図中の赤色歯面の中に黄色歯面が表れています(ギヤは無修整).


1.15 歯当たり
  歯面修整(図1.45)を与えた歯車に図1.51で歯当たり条件を設定し歯当たりを確認することができます.ここでは,平行度誤差および食い違い誤差を0とし,接触最大クリアランスを2.0μmとしたときの歯当たりを図1.52および図1.53に示します.

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1.16 伝達誤差解析
  伝達誤差解析では,無修整歯形または図1.45で与えた歯形で無負荷時の回転伝達誤差試験をすることができます.図1.54に伝達誤差設定を示しますが,ここでは2D解析または3D解析の選択をすることができ,軸の振れ,回転速度を設定することができます.また,ピッチ誤差は図1.55のように最大値の設定または全歯のピッチ誤差を設定することができます.
  伝達誤差解析,ワウ・フラッタ(回転むら)そしてフーリエ解析結果を図1.56~1.58に示します.図1.57の [音]を聞くことができます.


  伝達誤差解析,ワウ・フラッタ,フーリエ解析結果は,図1.56~1.58の左下にある で図1.59のように csv ファイル(本例の場合361個のデータ)に出力することができます. 本ソフトウェアは無負荷での伝達誤差解析試験です.負荷や軸角誤差に対応した伝達誤差解析は[45]CT-FEM Operaⅲをお使いください.


1.17 歯形出力
  生成した歯形は,図1.60の歯形ファイル形式 で出力することができます.3D-IGESの場合,歯形を一体型と分割型を選択することができ,分割型の場合は歯元フィレット部,インボリュート歯面,歯先R,歯先部に分割して図1.61のように出力します.
  図1.62に示す座標補正設定では,金型用に使用することを考慮し,モジュール収縮率や圧力角補正,ねじれ角補正そして放電ギャップを考慮した歯形を出力することができます.例として図1.63にモジュール収縮率20/1000を考慮した歯形図(2D)を示します.また,歯形座標値を図1.64のようにテキストファイルで出力することができます.


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1.18 内歯車
  内歯車は図1.3で「外歯車×内歯車」を選択することで外歯車と同様に計算することができます.図1.65に歯車諸元を図1.66に寸法を示します.図1.67に歯形レンダリングを図1.68に歯当たりを示します.なお,図1.68のギヤにかみ合うピニオンは,図1.45と同じ歯面修整を与えています.また,強度計算,伝達誤差解析,FEM解析そして歯形出力などは「外歯車×外歯車」と同様です.


1.19 HELP機能
  操作方法を知りたい場合は[HELP]機能を使うことができます.例えば,歯車精度について知りたい場合は,「精度」フォームをアクティブにして[F1]キーを押すことにより図1.69のように精度についての説明を表示します.


1.20 設計データ管理(保存・読み込み)
  データベースの設定は,図1.70のように選択することができます.また,設計データは図1.71のように保存することができ,図1.72のようにデータを読み込むことができます.データ読み込みは,管理番号やタイトルの他に歯車諸元(モジュール,歯数,圧力角,ねじれ角)からも検索することができます.


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1.21 ISO 6336(2006): International Standard
Calculation of load capacity of spur and helical gears以下に,ISO 6336(2006)の計算例を示します.


1.21.2 ISO 6336規格
ISO 6336の規格に基づいた計算例を以下に示します.

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